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「なぞのばしょ」で10年越しに出会ったアルセウスがもたらしたもの~バグとクリエイティブについて~

 僕は感動した。

 

 こうして文章も崩しに崩して書いてしまうぐらいに、感動したのだ。

 

 何に?と聞かれたら、それはもちろん以下の動画だと答えよう。

www.youtube.com

 

 

 これは、「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」にて有名な「なぞのばしょ」バグを利用して、幻のポケモンであるアルセウスを改造なしで手に入れる、という内容なのだが、なんと投稿されたのは2017年1月22日。このゲームソフト発売から10年以上経った今日に、突如として海外プレイヤーCryo氏の手によって投稿されたのである。

 

 最早10年以上前のゲームであるため、そもそも何がどう凄いのかピンと来ていない方も多いかと思う。そのため、簡単に解説をさせていただく。

 

 ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」(以下、DP)は2006年9月28日に発売された、シリーズにして第4世代目その皮切りとなったゲームである。

 大きな特徴として、所謂ポケモン本編シリーズとしては初のニンテンドーDS用ソフトであることが挙げられる。

 それまでのゲームボーイアドバンスで発売されていたソフトよりも更にグラフィックが綺麗になり、素人目に見ても表現の幅が大きく広がっていた。

 しかし、一方で(新たなハードに移ったことが原因かどうかは定かではないが)重大なバグがこのゲームには存在していた。

 それが俗に言う「なぞのばしょ」バグである。詳しい方法などはググってもらえばわかると思うが、主人公がある場所である行動を取ると「なぞのばしょ」と呼ばれる真っ暗な世界に移動でき、やり方によっては本来行けるはずのないデータ上の場所にほぼ任意でワープできてしまうという事件が発売後に起きたのである。

 これにより、公式で隠しポケモン(公称は「幻のポケモン」)とされていたダークライシェイミの2匹は公式での解禁を待つまでもなく上記のバグ技で発売1か月後には入手可能という状況になっていた。

 そんな中、バグとは別にソフトを改造・解析している層からネット上に「DPには幻のポケモンが更にもう1匹、アルセウスというポケモンがいる」という噂が流された。

 バグ技でダークライシェイミを捕まえられるのだから、当然そのアルセウスというポケモンも捕まえられるのだろう、当時バグ技に触れていた小中学生がそう考えるのは無理もない話だった。そのせいか、時間が経つにつれて「こうすればアルセウスを捕まえられる!」といった根拠のない情報が乱立するようになっていった。そして、それらは全てデマだったのである。

 詳しく言うと、ダークライシェイミは個として存在する専用のマップでシンボルエンカウント(ポケモンに話しかけるタイプ)の遭遇方法であるというのがバグで出会えてしまう理由のひとつだったのだが、アルセウスだけは出会う場所が特殊イベントを介してマップ上に重ねて出現する専用マップであり、当時の「なぞのばしょ」バグに対する認識では改造以外に不可能とされていた、ということである。

 結局のところ、10年前にアルセウスをバグで入手する方法はなく、当時は正式に配信されるその約3年後まで改造でしか手に入らないポケモンとなっていた。

 

 しかし今回、それから10年以上経ち、本当に「なぞのばしょ」でアルセウスを捕まえられるという報告が出現したのだ。これが盛り上がらずにいられるだろうか。

 

 実際に動画を見ている間、僕は10年前に抱いていたこのゲームに対するドキドキとワクワクを思い出し、少年に戻っていた。

 だってそうだろう、不可能と言われたバグ技が10年の月日を経て実現されたのだから。そんなものを見て、当時から追っていた人間が喜ばないわけがない。

 動画を見終えた僕はまさに、拳を振り上げて「これこそがクリエイティブだ!」と1人スタンディングオベーション。しかし、Twitterでそう発言したところ、意外と「そうは思わない」「良くない」という声も多く見られたのだ。

 この違いはどこに起因するものなのか、僕は考えてみることにした。

 

 確かに、ポケモンは他者との通信交換・対戦という要素と切っても切り離せない関係にある。その観点で言えば、他者に迷惑をかけたり交換レートを崩壊させる可能性のあるバグ技が忌み嫌われるのは当然と言える。

 しかし、僕はこうも思う。ポケモンは通信交換・対戦だけがその魅力ではないと。

  

 先述の通り通信という要素とポケモンが密接に結びついている以上、他者と比べた際に全員が足並みを揃えているゲームであることが前提となってくる。そういう意味では、ポケモンはずっと昔からソーシャルゲームだったという言い方もできるだろう。その一面を仮に「ソーシャルゲームとしてのポケモン」と呼ぶこととする。

 しかし、同時に現実での通信要素なくプレイするゲームとしてのポケモンという一面があることを、全てのプレイヤーが知っている。そう、一人の少年少女として冒険を繰り広げるストーリーモードのことだ。仮称するとしたら「RPGとしてのポケモン」だろうか。

 ソーシャルゲームとしてのポケモン」と「RPGとしてのポケモン」、この二つの要素を持ち合わせたゲームとして、ポケモンは今も変わらず進化を続けている。

 がしかし、依然としてそれら二つが要素としてゲームの中で深く混ざり合うことはないのだ。それは、それら二つはそれぞれ「プレイヤーとプレイヤーが向き合うゲーム」と「プレイヤーと作品が向き合うゲーム」という、方向性の違うゲームだからではないかと僕は思う。

 もちろん、ポケモンにおいてそれらはどちらも素晴らしいゲームだと思う。しかし、これら二つにとっての「バグ」は、ゲームの形によって大きく姿を変えるものとなる。

 

 「ソーシャルゲームとしてのポケモン」におけるバグは、先述の通り忌み嫌われる存在だ。全員揃わなくてはいけないはずの和を乱す、厄介者と言える。

 しかし、「RPGとしてのポケモン」におけるバグはどうだろうか。少なくとも、赤緑RTA(リアルタイムアタック)や今回の「なぞのばしょ」は笑われこそすれど忌み嫌われるものではないだろう。

 月並みだが、僕はこのRPGとしてのポケモン」におけるバグの在り方が好きだ。だってそうだろう、大人が用意した道でこっそりと抜け道を見つける、これが楽しくない人間はまずいないからだ。だから、ここからはその話をしようと思う。

 

 バグを使うゲームの正しくないプレイは悪だ、と思う方もいるかもしれない。しかし、ゲームにおける作品性というのは決して制作側の都合で決まるものではない、と僕は思う。

 特に、RPGとしてのポケモン」の場合は世に送り出されたゲームに触れるプレイヤーがいて、同時にプレイヤーは触れたものを作品として評価する権利がある。そのどちらが欠けても作品としては成立しないのである。そして、そこには世に出た時点で実装されているバグも含まれていることになる。言い方を変えると、作品をどう受け取ろうと、どう遊ぼうと受け手の自由だし、バグもまた正しく作品の一部ということだ。少なくとも、僕はそう考えている。

 

 それらを踏まえたうえで、今回のアルセウス到達の件と「クリエイティブ」という言葉についてもう一度考えてみたい。

 

 まず、10年もの月日が経ってからバグ技で最強のポケモンアルセウスまで到達し、今回の動画を投稿したCryo氏にはきっと僕らでは想像もできないような熱意と苦労があったことだろう。

 それは、理解できずとも決して嘲笑や侮蔑の対象としていいものではないと僕は思うし、当然ながらぽけりんやはちま起稿といったまとめサイトのように転載してアフィリエイトで稼ぐのに利用してしまえなんていうのももっての外だ。

 

  Cryo氏には、そのクリエイティブな発見に見合うだけの賞賛が送られるべきだと僕は思う。

 僕にとってクリエイティブとは、「この世界にあるものに自らの技術を以て価値を付加し総財産を増やすこと」だ。それがゲーム的に正しい手段だから良い、正しくない手段だから悪いということは絶対にない。付加する価値の大きさに差異はあれど、どれも等しく大切なものであると僕は主張する。

 それは媒体が違っても同じことであり、例えば「ソーシャルゲームとしてのポケモン」におけるポケモン対戦で弱いとされていたポケモンが活躍できる道を発見し証明することは、そのポケモンに対し「技術を用いて価値を付加した」と言えるし、イッシュ地方を舞台にした同人誌を制作するということであればその世界に対して「技術を用いて価値を付加した」とも言える。

 原点であるポケモンにいたっては、ポケモンという存在がいるということを表現することでこの現実世界そのものに対して「技術を用いて価値を付加した」とも言えるだろう。ポケモンGOの世界的なヒットも、それを如実に表している。

 

 そして、アルセウスに到達したCryo氏は「ポケモンにとっては10年前、リメイクも間近のDPという作品に新たな価値、遊び方をその技術で付加してみせた」ということである。これを讃えずして何を讃えろと言うのか。

  今回の件において、バグを使うことそのものがあまり好きではない、という意見の人もいるかもしれない。

  しかし、正規のプレイであれバグであれ、それらを使った人間の研究がいかに人を楽しませ、価値を生み出しているのか、そしてどれほど作品として、RPGとしてのポケモンに真摯に寄り添っているかは、好き嫌いに関係なく見落とさずにいてほしいと切に思う。

 

 何に価値があって、何を守っていくべきなのか。

 誰もが価値を安く低く見られてしまう現代だからこそ、こういった大切な価値を持つものを正しく見つけていくことがポケモンがずっと描いてきた「人と人との繋がり」をより平和的な形で反映させることができる道なのではないかと、僕は思う。

 最後になったが、改めて今回バグを突き詰めてアルセウスに到達したCryo氏とその他、海外の研究プレイヤーたちには最大限の感謝と賞賛を送りたい。僕の大好きな「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」を更に面白くしてくれて、ありがとう。

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